【用語コラム「確率」】野球の打率と営業活動の深〜いカンケイ

今日はデータ分析と縁が深い営業活動の確率について考えてみましょう。

会社で「最も優秀な営業部門はどこか?」を割り出したい、といったことはないでしょうか。

その際に必ず確認しておきたいのが、以下の3つです。

  • 定義を明確にする
  • 他と比較する
  • 分母の数字も見る

それぞれどのようなことを言っているのでしょうか?

今日は野球の打率を例に挙げて紹介してみたいと思います。

データ分析と確率。
野球の打率と営業活動。

まったく関係なさそうですが、実は深〜い関係があるのです。

1.定義を明確にする

具体的に考えていきましょう。

まず1つ目のポイントは、定義を明確にするところからです。

打率

打率とは、安打数÷打数で算出されます*。


*NPB.jp 日本野球機構
記録の計算方法 | 野球の記録について

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


このように、ある数字とある数字を割り算して求められる数字のことを割合といいます。

「打率」という言葉からもイメージがつくかと思いますが、打率とはヒットを打つ確率とも言えます。

言い方を変えると、割合を計算することは確率を計算することでもあるのです。

営業活動ではどうでしょうか。

お題は「最も優秀な営業部門はどこか?」でした。優秀というのも色々な定義がありそうですが、まずはなによりも受注していることが大切です。

一方で、あまりにも商談に時間をかけていたり、失注が多くて「数打ちゃ当たる」状態になっていると効率的ではありませんね。

打率と同じように、優秀な営業部門とは受注する確率が高い部門と考えて、受注率を見ていくと良さそうです。

安打数

では、安打数とは何でしょうか。

安打とはヒットのことですが、単打(シングルヒット)だけでなく、二塁打(ツーベースヒット)、三塁打(スリーベースヒット)、本塁打(ホームラン)をすべて含みます。

安打 – Wikipediaja.wikipedia.org

営業活動ではどうでしょうか。

ここでは、受注数が挙げられそうです。その中には、シングルヒットのようなごく標準的な案件もあるでしょうし、受注額がケタ違いのホームラン級の案件もありそうですね。

打数

では、打数とは何でしょうか。

打数とは、打席数から犠打、犠飛、四死球を除いたものです。打席数とは、バッターボックスに立った回数のことを言います。犠打とは犠牲バントのことを、犠飛とは犠牲フライのことを、四死球とはフォアボールとデッドボールのことをそれぞれ指します。

これらを抜く理由は、四死球のようにバッター自身の直接的な責任ではない打席結果をカウントされてしまうと不公平が生じる可能性があるためです。

営業活動ではどうでしょうか。

例えば、商談数などが挙げられそうです。ただし、打数をカウントする際に四死球などの打席を除くのと同じように、先方都合でキャンセルになった商談は抜いた方が良さそうですし、先輩社員へ引き継ぐ為だけの犠牲バントのような商談なども、カウントしない方がよさそうです。

営業活動の場合

ここまでで、野球と営業活動を整理して比較してみましょう。

野球 打率 安打 打数
営業活動 受注率 受注数 商談数

いかがでしょうか。

ほぼ同じような構造になっているということがお分かりになるかと思います。

鈴木誠也選手の場合

具体的な例を挙げてみましょう。

例えば、広島東洋カープの鈴木誠也選手の2021年の成績*は、435打数138安打。打率は.317です。


*NPB.jp 日本野球機構
鈴木 誠也(広島東洋カープ) | 個人年度別成績

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


言い方を変えると、鈴木誠也選手は3割以上の確率でヒットを打つバッターであるとということができます。

2.他と比較する

さて、鈴木選手はバッターとして優秀なのでしょうか?

2つ目のポイントは他と比較することです。

先に結論を言うと、野球がお好きな方はご存知の通り、実は鈴木選手は2021年のセ・リーグ首位打者です。つまり、日本のプロ野球界においてヒットを打つ確率がとても高い人であり、間違いなく優秀なバッターであると言えます。

しかし、野球を見ない方にとっては、イマイチその数字がピンと来ないかもしれません。

そこで、他と比較をすることが大切です。

他の選手と比較する

まずは他の選手と比較してみましょう。

以下は、2021年度のセ・リーグにおける打率上位10人です。これを見ると、3割以上の確率でヒットを打てる、いわゆる「3割バッター」は、7位の宮﨑選手(横浜DeNAべイスターズ)以上の7名いることが分かります。

また、4位の近本選手(阪神タイガース)以上はだいぶ僅差であることも分かります。

画像
2021年度 セ・リーグの打率上位10人


*NPB.jp 日本野球機構
2021年度 セントラル・リーグ 【打率】 リーダーズ(打撃部門)

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


こうしてみてみると、鈴木選手は確かに優秀なバッターではあるものの、飛び抜けて優秀なバッターであるというわけではない、ということが分かりそうです。

過去と比較する

過去と比較するのも大切な方法です。

例えば、20年前の2001年度のセ・リーグの打率上位10人は以下の通りです。

現在と少し表記が異なっていますが、打率の定義は変わりません。

これで見ると、首位打者の松井秀喜選手(巨人=読売ジャイアンツ)は.333と、鈴木誠也選手よりも高い打率を残していることが分かります。

画像
2001年度 セ・リーグの打率上位10人


*NPB.jp 日本野球機構
年度別成績 2001年 セントラル・リーグ

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


参考までに、2021年度シーズン終了時点での歴代最高打率は、バース選手(阪神タイガース)が1986年度に記録した.389です。

2位と3位にイチロー選手(オリックス・ブルーウェーブ=当時)が入っており、2000年度に残した.387と1994年度に残した.385という、記録が残っています。

画像
歴代打率上位10人


*NPB.jp 日本野球機構
歴代最高記録 打率 【シーズン記録】

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


これに比べると、2021年度の鈴木誠也選手は素晴らしい成績ではあるものの、過去にはもっと凄い選手がいたということが分かるかと思います。

営業活動の場合

営業活動ではどうでしょうか。

打率を他の選手や過去の選手と比べてみるように、受注率を他の部署や過去の自部署の成績と比較することで、相対的な立ち位置が分かっていそうです。

このように、確率の数字そのものだけではなく、その数字がどれほどのものなのか他と比較して評価することが大切です。

3.分母の数字も見る

3つ目のポイントは、分母の数字も見ることです。

どういうことでしょうか?

分母の数字=打数を確認する

打率において、分母の数字とは打数のことです。

ここで、歴代打率上位10人の表をもう一度よく見てみましょう。

画像
歴代打率上位10人(再掲)

右から2つ目の列、打数が人によってだいぶ異なることが分かるかと思います。

例えばイチロー選手は、2000年度に.387を達成した時は305打数、1994年度に.385を達成した時は546打数と、同じ1シーズンであるにも関わらず打数が随分異なりますね。

これはいくつか理由があります。

  • 年度によって総試合数が異なる
  • ケガなどによりその選手が試合に出場しないことがある
  • 四死球や犠打が多い

例えばイチロー選手の個人成績を確認すると、1994年の出場試合数は130、2000年の出場試合数は105と明らかに減っていることが分かります。

イチロー選手は2000年の序盤は高打率を記録していたものの、8月にケガをしてその後のシーズンを欠場します(そして、10月にMLBへの挑戦を表明し海を渡ります。その後のイチロー選手の活躍は、皆さんご存じの通りでしょう)。

画像
イチロー選手の成績(日本のプロ野球のみ)


*NPB.jp 日本野球機構
イチロー(オリックス・ブルーウェーブ) | 個人年度別成績

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


また、四死球は1994年度は61(四球51、死球10)、2000年度は58(四球54、死球4)と実数は若干減ってはいるものの、1試合当たりの四死球数は増えていることが分かるかと思います。

これは、イチロー選手にヒットを打たれることを恐れたピッチャーが自然とストライクボールを投げることを嫌い、年々四死球が増えていったとも言えそうです。

もし同じ打率だったとしたら、より打数が多い方がより安打も打っている、つまりチームに貢献しているとも言えます。

事実、イチロー選手は1994年度には210安打を達成しており、2000年度の153安打より37%も多いのです。

営業活動ではどうでしょうか。

受注率の分母の数字は商談数です。例えば同じ受注率の人がいたとしても、より商談数が多い人の方が精力的に活動していると言えそうですし、実際に受注数も多いことになり、会社により貢献していると言えるかもしれません。

規定打席

分母の数字も見る理由はもうひとつあります。

例えば、年間で2打数1安打のバッターがいたとしましょう。そのバッターの打率は.500です。鈴木誠也選手やイチロー選手よりも圧倒的に打率が高いですね。

では、そのバッターは優秀なバッターであると言えるのでしょうか?首位打者を取れるでしょうか?

おそらく、そうではないということが想像つくと思います。たった2打数しか出場していない選手よりも、年間を通してコンスタントに結果を残した鈴木誠也選手やイチロー選手の方が優秀であると言えそうです。

実際に、打率のランキングにも2打数1安打のようなバッターは掲載されていません。

実は、野球では規定打席というものがあります。

規定打席とは、首位打者など打撃ランキングの対象となるために必要な打席の数のことで、シーズン中の所属チームの試合総数の3.1倍と決められています。

2021年度の試合数は各チームとも143試合であるため、規定打席は443打席となります。

2021年度の鈴木誠也選手は533打席であり、文句なく規定打席をクリアしているため、首位打者としての権利を得たことになります。

なおこれは余談ですが、規定打席不足でも首位打者の可能性はあり、2021年度のシーズン中には、吉田正尚選手(オリックス・バファローズ)にその可能性がありました。


オリックス吉田正尚、規定打席不足でも首位打者の可能性 戴冠なら史上初 – プロ野球 : 日刊スポーツ

パ・リーグの打率トップに立つオリックス吉田正尚は、戦列復帰に向けて懸命のリハビリを続けている。3日のソフトバンク戦で遊撃へwww.nikkansports.com


結果的に吉田選手は規定打席をクリアし、パ・リーグで2位以下を圧倒的に突き放した文句なしの首位打者に君臨しました。

画像
2021年度 パ・リーグの打率上位10人


*NPB.jp 日本野球機構
2021年度 パシフィック・リーグ 【打率】 リーダーズ(打撃部門)

日本野球機構(NPB)オフィシャルサイト。プロ野球12球団の試合日程・結果や予告先発、ドラフト会議をはじめ、事業・振興に関npb.jp


このように、打率だけでなく、分母の数字、つまり打数も確認しておくことが大切です。

営業活動の場合

この規定打席を踏まえて、営業活動ではどうでしょうか。

1年間に100件の商談をして、30件商談が成立(受注)した営業担当Aさんがいたとします。100打数30安打、打率.300というわけです。

一方で、1年間に10件の商談をして、5件商談が成立(受注)した営業担当Bさんがいたとします。10打数5安打、打率.500というわけです。

  受注率 受注数 商談数
Aさん 30% 30 100
Bさん 50% 5 10

さて、AさんとBさん、どちらが優秀でしょうか?

これまでの議論からすると、確かに打率はBさんの方が高いものの、Aさんの方が安打数(受注数)は多いので、Aさんの方が優秀だと言えるかもしれません。

しかしBさんからしてみたら、自分の方が受注率は高いうえに、少ない商談数でより効率的な営業活動が出来た、という思いもあるかもしれません。

なかなか難しい問題ですね。

この時、営業担当者が達成すべき商談数の最低ライン、いわば規定打席ならぬ規定商談数のようなものを決めておくと良さそうです。

規定商談数を20件とあらかじめ決めていれば、Bさんはそもそもその規定商談数に達していなかったために「首位打者」の称号を得る権利はないことになります。

逆に、規定商談数が10件だったとしたら、Bさんはその規定商談数をクリアして高い打率も達成したことになり、最も効率よく営業活動を行った人としての称号を得ることが出来るでしょう。

まとめ

野球の打率を例にして、営業活動における確率について考えてみました。いかがでしたでしょうか。

まとめると、

  • 割合を計算することは確率を計算すること
  • 野球の打率と営業活動の受注率はほぼ同じ考え方が出来る
  • 確率を見る時には、確率そのものの数字だけではなく、他と比較することが大事
  • 分母となる数字と、その数字が規定に達しているかを要チェック!

というお話をしました。

確率の計算は決して難しくはありません。

上手に解釈してうまく確率を活用することで、効率よくビジネスに取り組んでいきましょう!

今日のお話が明日のデータ分析のお役に立てれば幸いです。