手元のリトルデータすら活用できないのにビッグデータを使えこなせるわけがない

ビッグデータの時代だからこそ、リトルデータの重要性を見落としてはいけない。

日々更新される膨大なデータを分析・活用し、新たな成長につなげようとしている企業は少なくありません。しかしながら、大量のデータを扱えるからといって安易に導き出される結論が正しいとは限りません。

むしろリアルな自社データを丁寧に分析し、的確な仮説を立てることこそが成功への近道。大量のデータに隠された本質を見極めるには、リトルデータを適切に活用できる体制が必要不可欠なのです。

本記事では、リトルデータとビッグデータの定義や特徴を整理した上で、両者を上手に組み合わせ、最大限に活用するためのポイントを解説します。

リトルデータ活用を軽視するあまり、ビッグデータ依存の罠に嵌ることの無いよう、注意すべき点や事例も交えつつ述べていきたいと考えています。

リトルデータとは

リトルデータとは、企業などで日常的に集められる比較的小規模なデータのことを指します。

– リトルデータの特徴と種類

リトルデータの特徴は、データ量がそれほど大きくないこと、日々更新されること、実務で直接使われること等があげられます。

種類としては、顧客データ、販売データ、在庫データ等が代表的です。

データの種類 内容
顧客データ 顧客の属性(年齢、性別、職業等)購買履歴(いつ、何を購入したか)操作ログ(Webサイト等の操作ログ)等
販売データ 受注データ、販売数量、売上高、客単価等の集計データ。日次・月次で時系列分析
在庫データ 製品や部材の在庫数量、入出庫データ。適正在庫設定、欠品や廃棄ロスの把握等
生産データ 製造工程の稼働状況、良品生産数、不良品発生状況等の実績データ
品質データ 出荷検査の合否結果、クレーム内容、原因究明データ等
設備データ 製造設備やサーバー等の稼働状況、故障履歴、メンテデータ等

– リトルデータの重要性

リトルデータは企業の現場で直接役立つデータであり、日々の業務改善や意思決定に不可欠なものです。

データドリブンな経営を進める上で、リトルデータの適切な分析と活用が重要不可欠と言えます。

ビッグデータの概要

– ビッグデータとは

ビッグデータとは、従来のデータベースソフトでは取り扱いきれないほど大量のデータを指します。

その特長として、ボリューム(量)、バリエーション(種類)、ベロシティ(速度)の3Vがあげられます。

項目 内容
ボリューム 膨大なデータ量を指す。テラバイトやペタバイト単位の大容量データ
バリエーション データの種類や形式の多様さ。文字・音声・映像など様々な構造のデータ
ベロシティ 高速に生成・更新されるデータの流れの速さ。リアルタイム処理が必要

– ビッグデータの特徴

ビッグデータの特徴は、先ほどの3Vに加えて、真実性(バリディティ)、価値、変化性といった点があげられます。

大量で様々な種類のデータが高速に更新されるため、収集・管理・分析が難しく、正確性の担保も課題です。

しかし適切に分析することで新しい価値を生み出す可能性を秘めているのがビッグデータです。

– ビッグデータを活用する意義

ビッグデータを活用するメリットは、複雑な相関関係の発見やリアルタイムな意思決定を可能にすること等があげられます。

これにより製品開発の加速や業務効率化を図ることができるため、データドリブンな経営が期待されています。

リトルデータ活用の重要性

– リトルデータを適切に分析・活用できないところにビッグデータの価値はない

ビッグデータの分析には、リトルデータを使って仮説を立て検証することが重要です。

リトルデータを深く理解しきれない段階でビッグデータを分析しても方向性が不明確で意味がありません。

– ビッグデータを支える基盤はリトルデータの活用

ビッグデータの収集や分析といったインフラ面で、リトルデータを扱うシステムがベースとなっています。

リトルデータのシステム構築なくして、大規模なビッグデータ活用は望めません。

– リトルデータ活用力こそがビッグデータ活用の要である

要するに、リトルデータの扱い方を体得していなければ、単にデータ量の多いビッグデータを分析しても真の洞察は得られないということです。

リトルデータ活用が基本中の基本なのです。

リトルデータをいかに活用するか

– リトルデータの収集方法と適切な保存

リトルデータの収集には、自社システムや各種センサーからの自動入力と、手動入力とがあります。

過不足なく適切なデータを揃え、データ形式を整えてデータベース等に保存することが重要です。

– リトルデータの全社的共有の重要性

収集したリトルデータの価値を最大化するには全社での共有が欠かせません。

クラウド上にデータプラットフォームを構築し、社内のあらゆる部門からアクセス可能にすることが望まれます。

– 分析に適したリトルデータの整形と可視化

分析者が分析しやすい形式にリトルデータを整える ためのデータ整備と、グラフやダッシュボード等で可視化することが分析精度の向上につながります。

– 事例1:菓子製造小売店

同社ではこれまで、各店舗が商品の仕入れや製造を個別に行っていました。

しかし商品データや売上データを店舗間で共有していなかったため、売れ筋商品の判定や適正な仕入れ量の把握が課題でした。

そこでPOSシステムと在庫管理システムをクラウド上に構築し、店舗間でのリアルタイムなデータ共有を実現しました。

これにより、本部がすべての店舗の商品データを横断的に分析できるようになり、人気商品の傾向をつかんだ販促や効率的な生産計画に活用できるようになりました。

売上げデータと消費動向の好循環が生まれ、製造ロスが減り安定した商品供給が可能となるなど、データ共有と活用の効果は計り知れませんでした。

– 事例2:自動車部品メーカー

この自動車部品メーカーでは、工場内の設備から稼働状況や製造データをリアルタイムで収集し、クラウド上のデータプラットフォームで共有しています。

あるプレス工程で、製品の不良率が従来の2倍に高まる事態が発生しました。

これまでは原因特定に日数を要していたのですが、設備データを可視化して関係者で即座に共有できる体制が整っていたため、データ分析を通じて原因を特定し対策を講じることができました。

この事例では、リトルデータを迅速かつ適切に活用することで、大きな損失を防ぐことができました。

– 事例3:生損保会社

ある生損保会社で、各営業所の保険データを本社のデータプラットフォームに蓄積・共有することで、リアルタイムな需要分析を実現しました。

これまで商品開発やマーケティングは本社主導で行われていましたが、営業所毎の保険データを可視化して各地域のニーズを分析することが可能となりました。

ある地方都市で若年層向け医療保険商品が人気上昇中であることが判明したため、同様の地域特性をもつ営業所においてもこれを推奨する施策を実行。商品の大ヒットにつなげることができました。

これは、リトルデータの共有と活用により、局所的な市場動向をパターン化し全社的な施策に結びつける良い事例です。

ビッグデータとリトルデータを併用した分析例

– リトルデータで仮説検証、ビッグデータで検証と展開

リトルデータから企業や商品の特徴を分析し、マーケティング上の仮説を立てます。

次に、SNSやWEB上のビッグデータを用いてこれらの仮説が正しいか検証していきます。

有効性が確認できれば、新商品開発や販路開拓における大規模な実証実験へとつなげていく、という手法が有効です。

– 両者を掛け合わせた相乗効果

リアルデータからの仮説形成と、ビッグデータによる仮説検証のサイクルを回すことで、効果や意外な洞察が生まれます。

両者の特徴を理解した上での適材適所な利用が不可欠であり、相乗効果を期待することができます。

– 事例1:小売チェーン

自社のPOSデータから、20代女性の消費者に人気のある商品特性(自然派でヘルシー志向な食品や雑貨)を分析しました。

次にTwitterやインスタグラムに投稿された内容をテキストマイニングし、同世代のヘルス意識やエシカル消費の高まりを確認。

これらの仮説が正しいことが裏付けられました。

これを受け、PB商品開発部は自然派コスメやオーガニック食品を対象に大規模なマーケティングリサーチを実施。

好評だった新商品の売上げが当初の2倍以上を記録するなど、大成功を収めることができました。

この事例では、自社データの分析と外部ビッグデータの分析をうまく組み合わせることで、効果的な商品開発と市場投入を実現しています。

リトルデータとビッグデータの相乗効果が表れている好事例と言えるでしょう。

– 事例2:飲食チェーン

ある飲食チェーン店が、全店舗のPOSデータから売上の多いメニューや、時間帯ごとの注文傾向を分析しました。

一方でTwitterのつぶやきデータをテキストマイニングすることで、競合他社の評判やトレンドを分析。

自社と競合各社の強みや特徴を比較検討しました。

これらの分析から、デリバリーを強化すべき時間帯と、そのメニュー提供の在り方を提案。

収益改善に大きく貢献する結果となりました。

この事例は、内部データと外部ビッグデータを掛け合わせることで競合優位性を高めた好事例です。

– 事例3:電機メーカー

ある電機メーカーが、自社の製品修理データから故障パターンと原因の関係性を分析しました。

一方でSNS上の消費者の口コミや評価を分析し、弱点や改善点も洗い出しました。

これらの分析結果を踏まえて新製品の設計段階から故障リスクの低減と改良ポイントの反映に活用。初期不良を大幅に減らすことに成功した事例です。

内部データで製品の弱点を特定し、外部ビッグデータから顧客目線の改善点を捉えることで、高品質な新製品開発につなげています。

まとめ

今やビッグデータの活用が不可欠な時代と言われていますが、決してリトルデータの重要性が下がったわけではありません。

むしろ自社データを丁寧に分析し、的確な仮説を立てることがビッグデータ時代にこそ欠かせません。データ量だけを追いかけ、リアルなデータから目をそらすことがあってはなriません。

リトルデータとビッグデータ、双方の特徴を理解した上で、状況に応じた適切な組み合わせが求められます。一方のデータに偏った分析に陥ることなく、データ全体から本質を見抜く視点が重要です。

迅速な意思決定と戦略立案のためには、リアルデータとビッグデータをシームレスに掛け合わせる体制を整えることをおすすめします。それこそが、成功するデータドリブン経営の要諦なのですから。