社員全員のデータ分析活用スキルを押し上げるのに最適なExcelという武器

データは経営の肝となる重要な資源です。

しかし、データを活用し、経営判断に活かすには組織的な取り組みが不可欠です。

本記事では、データ活用の入口として、誰もが使っているExcelに着目します。

Excelを活用することで、企業はいかにデータ活用文化を創造できるのか。経営層の主導的関与、体系的な全社導入プロセス、従業員へのインセンティブ施策などの重要ポイントを解説します。

さらにExcelを超えた将来のデータ活用の姿についても展望し、データドリブン経営を実現するための道筋を示します。

はじめに

データは現代企業にとって重要な経営資源の1つです。適切にデータを活用することで、経営判断の高度化、業務プロセスの最適化、新しいビジネスチャンスの発見など、様々なメリットが生まれます。

しかし、データを単なる数値の集まりとしてではなく、経営に役立つ「インサイト」として活用するには、一定のスキルと体制が必要不可欠です。本記事では、その手始めとしてExcelというツールに着目し、企業がいかにExcelを活用してデータ活用力を高められるかについて解説します。

Excelは広く普及しているOfficeの一部で、表計算・データ分析のための機能を備えています。これまでも多くの企業がExcelを利用してきましたが、最近では機械学習やAIなど新しい技術の浸透に伴い、より高度な分析ニーズが高まっています。

こうした状況下で、Excelはデータ活用を推進するための、最適なツールであると言えるのです。低コストかつ柔軟性が高く、誰もが使えるだけでなく、高度な分析機能も備わっているためです。

Excelが最適な理由

なぜExcelが、企業のデータ活用を推進するための最適なツールなのでしょうか。その理由は主に3つあります。

(1)低コストかつ柔軟性が高い

Excelはマイクロソフト社のOfficeに含まれており、Office製品を利用している企業であれば、追加費用をかけずに利用できます。専用のデータ分析ツールを新規導入するよりも、格段にコストが抑えられます。

また、Excelには様々な計算機能やデータ操作機能が備わっており、目的に応じて柔軟に活用できます。例えば、ピボットテーブルを使えば大量のデータから自在に集計ができ、条件付き書式で визuaル的な分析も可能です。こうした柔軟性の高さが、多様な分析ニーズに対応できる理由です。

(2)企業内で広く利用されている

ExcelはOfficeの一部としてパソコンに標準搭載されていることが多く、多くの企業で日常的に業務で使われています。つまり、社員の多くが最低限の基礎知識を持ち合わせているということです。新しいツールを導入するよりも、社員が慣れ親しんだExcelを活用する方が、導入時の抵抗感は少なくて済むでしょう。

(3)データ分析から可視化までをカバー

Excelには、データの収集・加工、統計解析、機械学習による予測モデリング、データの可視化(グラフ化)などに関する高度な機能が搭載されています。単なる表計算を超えて、データ分析や可視化のプロセス全体をこのひとつのツールで実現できるのが最大の利点です。

以上の理由から、Excelはデータ活用を推進するための最適なツールであると言えます。低コストで柔軟性が高く、データ分析から可視化までのプロセス全体に対応できるためです。

全社でのExcel活用を阻む課題

Excelが優れたデータ分析ツールであることは間違いありません。しかし、実際に企業全体でExcelを十分に活用できているかというと、必ずしもそうとは言えません。全社的なExcel活用を阻む主な課題は以下の通りです。

(1) スキルの格差と理解不足

Excelの機能は非常に高度で幅広いものの、それを十分に理解し活用できる人材は一部に限られています。特に中核的な機能であるVBAやソルバーなどを使いこなせる人は少数派です。こうしたスキルの格差があると、全社的なデータ活用は難しくなります。

また、エンドユーザーの中にも、Excelの高度な機能の存在自体を知らない人が多くいます。操作は分かっても「どのようなことができるのか」を理解していないため、うまく活用できていないケースが多くあります。

(2) セキュリティ上の懸念

ExcelブックやVBAマクロには、マクロウイルスなどのセキュリティリスクが潜んでいます。このため、企業によってはExcelの一部機能が無効化されていたり、ファイル共有が制限されていたりする場合があります。

(3) 旧態依然のプロセスへの慣れ

長年にわたり、同じような方法でExcelを使い続けてきた結果、新しい機能や分析手法を取り入れる意欲が失われがちです。業務プロセスの慣性が、Excelの新しい活用方法を阻害する要因になっています。

このように、Excelの全社的な活用を実現するためには、様々な課題を克服する必要があります。

段階的な全社導入の進め方

前章でExcelの全社活用を阻む課題を挙げましたが、これらの課題を解決し、Excelを本格的に活用していくには、戦略的なアプローチが必要不可欠です。ここでは、段階的な全社導入の進め方について解説します。

(1) 経営層の理解と主導的関与

まずは経営層がデータ活用の重要性とExcel活用の効果を理解し、主導的に関与することが肝心です。経営層の強力なリーダーシップなくしては、部分最適に陥る懸念があります。

(2) 中核的な推進チームの形成

次に、ITや経営企画、人事などの部門から適任者を選抜し、専門的な推進チームを立ち上げます。このチームがExcel活用の標準化やガバナンス体制の構築、研修企画などを主導します。

(3) 標準化とガバナンスの確立

Excel活用において混乱が生じないよう、ルール策定やテンプレート化、権限設定などの標準化を図る必要があります。また、重要データの取り扱いルールなどのガバナンス体制も整備します。

(4) 部門別の導入計画立案

一度に全社導入するのは現実的ではありません。まずはパイロット部門を決め、段階的に他部門へと広げていきましょう。各部門の実情を加味した導入計画を立案することが重要です。

(5) 社内の機運醸成とコミュニケーション

Excelスキルの底上げとともに、なぜその取り組みが必要なのかという経営層の思いを社内に繰り返し発信し、機運を高めることも欠かせません。

このように、戦略的な全社導入プロセスを確立することで、課題を解決しつつExcelの全社活用を着実に進めていくことができるでしょう。

社内でのExcel活用促進策

Excelの全社活用に向けた体制は整いましたが、あくまでも形式的な枠組みにすぎません。本当の活用浸透に向けては、社員一人ひとりのスキルアップと意識改革が不可欠です。ここでは、具体的な活用促進策について説明します。

(1) 研修プログラムと資格制度

まずは体系立ったExcel研修プログラムを用意し、レベル別の研修を継続的に実施することが重要です。初級から上級までの段階を踏むことで、着実にスキルアップを図ります。 加えて、一定の到達度を認定する社内資格制度を設けることで、学習へのインセンティブが高まります。

(2) ベストプラクティスの共有

先進的な活用事例を社内で横展開することで、Excelの新しい可能性を社員に示すことができます。社内向けの活用ガイドラインを策定したり、優秀な活用事例を表彰したりと、ベストプラクティスを共有する場を設けましょう。

(3) 活用状況の”見える化”

各部門のExcel活用度を指標化し、進捗をリアルタイムで”見える化”することで、部門間で切磋琢磨する機運が高まります。 gamification(ゲーム的要素の取り入れ)により、活用を促進する工夫もできます。

(4) インセンティブの導入

優秀な活用事例には報奨金を支給するなど、金銭的なインセンティブを設けることも有効です。一定の活用実績があれば、それに見合う報酬を与えることで、社員のモチベーションをさらに高められます。

このように、従業員への働きかけを積極的に行うことで、Excelの活用を組織の血となり肉となる「文化」としていくことができるでしょう。

データ活用文化の定着

Excelの全社活用を推進するためのプロセスや具体的な施策については前章までに説明してきました。しかし、本当の意味でデータ活用が企業文化として根付くためには、さらに地道な取り組みが必要不可欠です。

(1) 現場主導のボトムアップ改革

データ活用を押し付けるのではなく、現場の課題解決ニーズから自然と浸透させていくことが肝心です。現場の制約や実態を踏まえながら、ボトムアップで改革を重ねていきましょう。

(2) 分析結果の経営判断への反映

現場で得られたデータ分析の成果を、経営陣が否応なく参照するようにしていきます。分析レポートを経営会議の審議資料に加えるなど、経営判断へのインプットを増やせばインパクトは大きくなります。

(3) 継続的な改善サイクル確立

ひとつの改革で満足するのではなく、継続的に現場とマネジメント側の双方から改善を重ね、より高いデータ活用レベルを目指します。PDCAサイクルを確立し、仕組みとして根付かせることが重要です。

(4) 人事評価との連動

データ活用への貢献度を、人事評価の一部に取り入れることで、組織として資する価値観の定着が促されます。処遇への影響を与えることにより、社員のさらなる意識改革を後押しできます。

このように、時間と労力をかけて地道な活動を重ねることで、やがてデータ活用はあたりまえの企業文化として浸透していくはずです。経営層と現場が一体となった長期的な取り組みが、文化定着への鍵を握っています。

Excelを超えた次なるステップ

Excelは優れたデータ分析ツールですが、それ自体に限界があることも事実です。データ活用を加速させ、より高度な分析を実現するには、Excelを起点としつつも、新しい環境やツールを段階的に取り入れていく必要があります。

(1) データ収集・統合の自動化

Excelでは基本的にデータ入力が手作業になります。大量のデータを効率的に収集・統合するには、APIの活用やデータ連携ツールの導入が不可欠です。データラングラウンディングの自動化を目指しましょう。

(2) 高度分析のための新ツール導入

Excelの機能には一定の限界があり、膨大なビッグデータの解析や、高度な機械学習モデルの構築には不向きです。Python、RなどのプログラミングツールやSaaSのAI分析ツールとの併用が求められます。

(3) データ活用人材の確保と育成

全社的なデータ活用を加速するには、データサイエンティストやデータエンジニアなどの専門人材が必要不可欠です。こうした人材を外部から確保するとともに、社内の人材育成にも注力しましょう。

(4) データマネジメント体制の強化

安全で信頼性の高いデータ活用を実現するには、データガバナンスやセキュリティ対策を徹底したデータマネジメント体制を整備する必要があります。専任のデータ管理部門の設置も検討課題です。

こうした新しい環境整備とツール投資、人材育成を進めていけば、単なるExcel活用から脱却し、本格的なデータドリブンな経営体制への移行が可能になるでしょう。Excelはそのための足がかりに過ぎません。次のステージに向けて、着実に備えを進めていきましょう。

まとめ

本記事では、企業がいかにしてExcelを活用し、全社的なデータ活用文化の創造を目指すべきかについて解説してきました。

Excelには低コストで柔軟性が高く、データ分析から可視化までをカバーできるという強みがあります。しかし同時に、スキルの格差や理解不足、セキュリティ上の懸念、旧態依然のプロセスへの慣れなどの課題もあります。

こうした課題を克服するには、経営層の主導的な関与の下、段階的な全社導入を進めていく必要があります。中核的な推進チームの立ち上げ、標準化とガバナンス体制の整備、部門別の導入計画立案などが重要なステップとなります。

さらに、研修の充実やベストプラクティスの共有、インセンティブの導入など、社員一人ひとりの意識改革とスキルアップを後押しする施策が不可欠です。加えて、現場主導の改革を重ね、経営判断へのデータ分析の活用を促進することで、企業文化へと定着させていきます。

しかしExcelにも限界があることを忘れてはなりません。将来的には、データ収集の自動化や新しい分析ツールの導入、データサイエンティストなどの専門人材の確保と育成、データマネジメント体制の強化などを図り、本格的なデータドリブン経営を実現する必要があるでしょう。

Excelはそうした変革への第一歩に過ぎません。企業が着実にそのステップを踏んでいけば、経営の基盤となるデータ活用文化が確立できるはずです。本記事がそのための礎となれば幸いです。